~Cochile~



 

 

教団の建物の裏には、森林が広がっている。

不気味にそびえ立つ教団の建物には似付かず、

晴れた日中のこの森林は穏やかでとても綺麗だ。

そんな森林の大樹にもたれかかり、ラビはお気に入りの書物を

何冊か自分の脇に置き、本を読んでいた。

任務に出かける格好とはうって変わって、ラフな襟付きのシャツに

ブルーのスラックスのようなパンツスタイルだ。

足元も重そうなブーツではなく、つっかけてすぐ履けそうなシューズ、

頭にはもちろんトレードマークのバンダナはしていない。

こうしてみると、ごくふつうの18歳の少年だ。

もう1時間以上ここでこうしている。

かさかさと足音が自分の方に向かってくるのに気づくと、

ラビは書物の活字から視線をそちらに向けた。

「ユ・・・ウ・・」

向けた視線には同じ年のエクソシスト、神田ユウが立っていた。

神田も、任務の時とは違って黒のカットシャツに黒のパンツ、

いつもなら結い上げている長い黒髪も結いを解き、そよ風に泳がせている。

「こんなとこにいたのか・・・」

神田は、ラビの隣に腰を下ろした。

「だって、コムイが急に今日は休暇を取っていいって言うんさ。

  急に言われても何していいかわからなくって・・・」

「だよな・・・」

「え?ユウも?」

「そういうことだ」

2人は視線を合わせると微笑んだ。

ふと、神田はラビの手にある本に視線をやる。

「ホントにお前は読書が好きだな」

「好きっていうか・・・小さい頃からの習慣かな・・・」

ラビは手にしてる本をパンパンと手で叩いた。

「ユウは本当に読書しないよね」

「小さい頃からの習慣だ」

ラビはぷっと吹き出してしまった。そして、視線を書物の活字に移す。

神田は覗き込むようにラビに視線を向ける。

「おもしろいのか?」

「まぁね」

「それは何処の国の言葉なんだ?」

「フランス語さ」

 

ラビはふと思った。

もしかして、神田は自分に構ってもらいたいのではないかと・・・

いつも神田に構ってもらいたくて,ラビの方が神田にまとわり付くのに、

今日の神田はいつもにもなく問いかけてくる.

そんな神田の態度に、ラビは少し意地悪をしてみようと思った。

問いかけてくる神田には興味はなく、書物に夢中なんだとお芝居をしようと思ったのだ。

これで相手の自分への心の錘を計れる。

恋の駆け引きとは昔の人はよく言ったもんだ。

ラビの勘は当たったようで、神田はラビが視線を書物に移すと、何かと問いかけてきた。

視線をずっと書物に向けてるラビを横目に、神田は膝を抱えてみたり、

両手を挙げて伸びをしてみたり、ラビの肩に顎を乗せて一緒に書物の文字を眺めて

みたりして、時間をもてあそんでいる様だが、

立ち上がってどこかへ行って時間を潰そうとは思っていないようだ。

ラビはそんな神田が可愛くて本当は抱きしめたくなったが、

ぐっとこらえて自分だけが考えた神田との駆け引きを楽しんでいた。

しかし、それも長い時間続かなかった。

神田の問いかけに生返事の芝居を打ってるうちに、

ラビは一時、書物に夢中になってしまっていた。

そして、神田がどうも静かになっていたのに気づき、

ラビは書物から視線だけ隣に移してみると、

神田は背中を大樹に預け瞼を閉じていた。

ラビは書物を閉じ、視線を神田の顔に近づけてみる。

すぅすぅと小さく寝息をたて、居眠りをしてる神田を見て気持ちが高揚する。

(やっべーっ!かわいいさぁ)

ラビは神田の寝顔を眺め、小さく呟いた。

「意地悪して・・・ごめんさ・・・」

小さく開いた薄い神田の唇に触れるだけのキスをし、風に泳ぐ黒髪を撫でる。

神田は「う~ん」と大きく呼吸をするとラビの肩にもたれ掛かって来た。

(どうやら、オレの錘のほうが重そうさ・・・)

 

「ユウ  大すきだよ・・・」

ラビは自分の肩にもたれ掛かる神田の髪にキスをし、瞳をとじた。

コムイがくれた休暇に感謝して・・・・

 

陽だまりの中、小鳥達の鳴く声が遠くのほうで聞こえていた。

 

 

<<POST SCRIPT>>--------------------------------------------

題名のCochileとは、あるお国の言葉で「うたた寝・居眠り」という意味です。

ほのぼのとしたラビュを書きたくてこうなりました。

ユウもラビたんもお互い相手が大好きなんですよ♪

でもホラ、ユウは言葉を使って気持ちを表現すんのは

苦手だから、たまに態度で出ちゃうんです。

その時ったらラビたんはもうストライクしっぱなしっ!

ユウが眼を覚ましたらふたりはどんな会話をするのかは

個々の妄想ということで・・・

              2007/11  るきと