文:koyo  

 

 

 

 

チベットの山奥。

人も獣も通わぬ切り立った崖の上。

ここにブックマンが住んでるはずだ。

闇の歴史を記録しながら流浪してるブックマンにも隠れ家がある、と 。

コムイさんに聞き出して、山の奥に辿り着いた頃はすっかり影が長くなっていた。

 

 

どうして僕はこんなところまで来てしまったのだろう。

いや、僕は・・・・・

ただ、あの2人に会いたいだけなんだ。

黒の教団を去っていった、あの2人に。

ブックマンの道を選んで出て行ったラビと

ラビを追っていった神田に・・・。

 

 

ガラリと石が足元に落ちてくる。

坂の上に誰か立っている。逆光になってるが、長身の赤い髪の男。

「ラビ!?」アレンが叫ぶ。

しかしその返事はアレンを凍りつかせた。

「あんた、誰?」

 

 

小屋の中にはブックマンが、いや元ブックマンと呼べばいいのか。

今はラビがブックマンだそうだ。

「ラビは・・・・ブックマンになってラビの記憶を無くしてしまったのですか?

 神田もここに居るはずなのですがご存知ありませんか?」

老人は一瞬痛ましい眼差しをアレンに注いだが、静かに言った。

 

 

「神田殿は、亡くなった。」

 

 

世界が止まる。

時間がまとわりついて動けなくなる。

 

意味は理解できても感情が認めずせめぎあう・・・。

崩れ落ちそうになる体を無理やり立てなおし、カラカラに乾いた喉から言葉を搾り出す。

 

「そ、そんなこと信じられない。だって神田は・・・」

「神田の命はもう残っていなかった。やつは・・・最後の命を、ラビを庇って捨てたのだ」

 

 

相打ちだったのだろう。

駆けつけた時はもうAKUMAの残骸と血まみれの神田を抱きかかえるラビの姿があった。

「なんで、なんで俺なんか庇うんさ、ユウ!

 ユウ、目を開けてくれ。ユウだけは巻き込みたくなかったのに・・・!

 お願いさ、ユウ。もう一度俺を見てくれ」

 

 

 


 

 

 

微かに目を開けた神田は唇を動かしたが、声を出せないままにラビを見つめて

黙って 微笑んだ。

 

 

鮮血で真っ赤に染まった、艶やかな真紅の笑顔。

 

 

それが最後だった。

 

 

温もりの消えた最愛の人を抱きしめて、血を吐くような絶叫がこだまする。

 

このままではラビが壊れてしまうと思い、ラビの記録を消去して、

力を使いすぎた私はブックマンの名をラビに譲った。

 

「ラビはもうブックマンとして生きている。ラビは何処にもいないのだ」

「・・・僕は・・・」

 

僕はラビの苦悩を知っていた。

AKUMAとの戦いがすべて終わっても、ブックマンは闇の歴史を記録する者。

自分の側に居たらユウはいつか自身を滅ぼしてしまうかもしれないさ。

そう言っていた。

 

最悪の事態で終わりが訪れた・・・。

無力感がアレンをつつむ。

 

「今日は泊まっていかれるがよい」

「いえ・・・僕は帰ります。ありがとうございました」

老人はうなずくと西を指差した。

「向こうの崖にブックマンがいるだろうから挨拶していくといい。この時間は、いつもそこに居る」

 

西側の崖は夕日に照らされて真っ赤だ。

ひざを抱えて夕日を見つめるブックマン。夕日はその姿を赤く、赤く染めている。

アレンの気配に気づきこちらを向いて微笑むが、

近づいたアレンはハッとなり、足を止めた。

ラビ・・・いやブックマンは泣いている。

 

「おかしいだろ?ここで夕日を見てると泣けてくるんさ」

苦笑いしながら話す顔は、アレンの知ってるラビだった。

流れる涙を拭おうともせず、前を見てつぶやく。

「じじいの言うには、消去したはずの記録がどこかに残ってて泣いてしまうらしいさ。俺は思い出せないけどさ」

 


 

 

 

 ・・・・赤い夕日

 

艶やかな真紅の笑顔

 

 

 

瞬時に悟る。その哀しみが胸をしめつける。

 

 

ああ・・・これからラビは・・・・

ブックマンとして冷徹な人生を歩みながら

思い出せない大切な人。失った記憶を想って涙するんだ。

 

 

憐憫でなく、悔恨でなく、純粋な愛の結晶を胸に秘めて。

 

 

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お友達のkoyo様から頂きました


春頃落ち込んでいたるきとをこのSSを送ってくれて励ましてくれたkoyo様に感謝しております

ありがとうございました                                                       2009/July/  UP

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